ビアンコの今日もご機嫌

毎日ご機嫌でいたい

白煙の奥の彼

水曜日は雨は降らないらしい
今週のカレンダーに1つだけ光る太陽のマーク
彼に久しぶりに乗ろうじゃないか

 


ロックを解除してカバーを外す

1か月分の落ち葉とホコリがそこらに舞う
その下から、彼の赤と青のコントラストが映える、抑揚の効いたボディが現れる

「久しぶりじゃないか、まだ僕に乗るだけの体力があったのかい?」
「やぁ、君こそその古い心臓はまだ動くのかい?」

駐車場を押して歩きながら、会話を交わす
手から心に伝わってくる迫力
脚に当たるフレームの冷たさ
全てが僕を挑発する

「エンジンぐらい一発でかけてみたまえよ」
「それは君次第だろ」

キックペダルを踏み込むと同時にあたりに甲高い叫び声がこだまする
同時にあたりがスモークでも炊いたかのように真っ白になる
まだまだ好調だ、嫌になるほどね

高いシートにまたがり、前傾姿勢になる
右足をステップに乗せ、右後を振り返る
邪魔者はいない
スロットルを開いてクラッチをつなぐ
彼のエンジンは、くぐもった叫びをあげながら体を前に送り出す

針が8000回転を超えた瞬間、動きが変わる
僕の体に、蹴り飛ばされたような衝撃が走る
彼は、悲鳴ではなく歓喜の叫びをあげながら回転数を上げていく

「もっとだ、もっと回せ!」

そんな声が聞こえてくる
それに応えて僕はさらにスロットルを開く
だけど目の前にはカーブが口を開いて待っている

シフトダウン、ブレーキ、そしてまたスロットルを開く
僕と彼は、同じだけ地面に近づいて曲がっていく
心とエンジンが共鳴する

右、左、右...
加速、減速、リーン、そしてまた加速
高鳴るのはエンジン、回転数が上がるのは心臓



蛙たちが合唱を始めるころ、僕はまた彼にカバーをかける

「体力落とすなよ」
「心臓に気を付けて」

次はいつ乗ろうか?
僕のエンジンが止まらないうちに、彼の心臓をまた目覚めさせないと